玲子ちゃんとまた会った≪十月二十九日≫ ―爾―門を出て、右へ。 坂道を下って、オリンピック競技場の南にある、ジョセフ・ハウスに顔を出す。 そこから、モナスティラキ駅周辺のバザールをのぞく。 宿の四つもあるキーのホルダーを購入しようと、やってきたのだ。 バザールは相変わらず観光客でごった返している。 ここのバザールは、広場ではなくて、一本の路地の両側に店を出している、細長く 伸びたバザールなのだ。 道の両側には、革製品やギリシャ特有の陶器や銅細工などが、所狭しと並べられて いる。 彼女に、ネックレスでもと思い、値札を見てびっくり。 1000~2000DRくらい出さないと、良い物は手に入らないのだ。 なんと、一ヶ月の家賃を軽く越えてしまうではないか。 観光気分ではないぞ! 結局、歩き回って、50DRのキーホルダーを一個購入して、シンタグマ広場に戻って 来た。 広場を占領している、カフェテラスに腰を下ろす。 カフェテラスに座ったからといって、何か注文しなくてはならないのかと言うと、 そうでもないらしいのだが、イスに腰掛けるとすぐに、ウエイターが注文を取りに やってくるので、仕方なく何かを注文する羽目になってしまう。 コーヒーを一杯注文して(22DR≒176円)、寝そべり広場を横切っていく、車や観光 客を目で追いかけながら、ゆっくりと流れる時を過ごす。 コーヒーは、カップとコーヒーを入れたものを持ってくる。 カップには、二杯分入る算段だ。 最初に熱いコーヒーを賞味し、二杯目はコーヒーが冷めるのもかまわず、ゆっくり と時間をかけて飲むことになるのが常だ。 午後四時ごろ、日がビルの屋上に沈んでいく。 暖かい陽射しを浴びていたのがうそのように、日が沈むと冷えてきたようだ。 * この広場のカフェテラスは、色彩で分けられている。 黄色いシートと青いシートだ。 天幕も同じ色で統一されている。 それが何でなのか、意味があるのかわからない。 ギリシャでは雨が少ない為、いつもは天幕がたたまれているのだが、雨の日とか陽 射しのきついときには、天幕が下ろされている。 ここは四方道路に囲まれている。 まるで島のようだ。 道路の向こうから見ているのだろう、客が座るとすぐ飛んでくる。 注文したコーヒーも、信号待ちをしながら、道路を横断して運んでくる。 なんとものんびりとしたカフェなのです。 そこがまた、たまらず好きなので、毎日顔を出しているので、今では常連さんにな ってしまっている。 公園と噴水を背にして、目の前はビル群、そしてその間を縫う様にして、人と車が ひっきりなしに通り過ぎていく。 騒々しく動き回る空間と静寂を楽しむ空間が、相対しているのだ。 なんとも奇妙な空間が出来上がっているのだ。 騒音と静寂が同居する空間。 シートに身を沈めて、本を読んだり、手紙を書いたり、旅行記の整理をしたり と、・・・一日ここに座っていても飽きない空間で、のんびりと優雅な時間を堪能 している自分に気がついている。 * 日が沈んでやっと重たい身体を起こした。 右手に見える銀行で、両替をしようと銀行に入ったところ、後から追いかけてきた のか、息を弾ましている玲子ちゃんが入ってきた。 玲子ちゃん「こんにちわ!何するの、そんな重たい荷物を担い で・・・。」 なんとも、いきなり変な挨拶だ。 俺 「これから又、宿を変えようと思って・・・、四回目 の引越しって訳。」 玲子ちゃん「また・・・変わるの?」 俺 「ああ!」 玲子ちゃん「それで、今度はどの辺なの??」 アドレス・カードを取り出して手渡す。 玲子ちゃん「あらっ!ジョセフ・ハウスより、もっと遠くなるの ね!」 俺 「そうだな。ちょっとだよ!」 玲子ちゃん「そっか!」 俺 「玲子ちゃんは、これからどこへ???」 玲子ちゃん「兄貴のとこよ。あそこ、あんまり寄り付くと、すぐ 子供世話とか、洗濯の手伝いをやらされるんだから。 本当は、それが嫌でジョセフに居るんだけど。」 俺 「それはないよ!姉さんも大変なんだから、子供二人 抱えて・・・。」 玲子ちゃん「当たり前よ!自分の子供なんだから!!!!」 俺 「それもそうだな!」 玲子ちゃん「ソ連経由で、ここまで来るのだって、大変だったの よ!子供世話で一日が終わっちゃうんだから。まった く嫌になっちゃうわ!!」 俺 「兄貴たちが帰ったって、玲子ちゃん一人残って、自 由にすれば良いじゃん!」 玲子ちゃん「そうしたいのは、やまやまなんだけど、そうもいか ないのよね。」 俺 「じゃあ、今日はずっと、兄貴のところに??」 玲子ちゃん「たぶんね!それじゃ、また!」 俺 「ああ!」 バイバイと手を振りながら、振り返った。 玲子ちゃん「今日は、来るの?」 俺 「たぶん、行けないと思う。そのうちまた、顔を出す って言っといてよ。」 * 午後六時。 「行人」を読み終えて、プラカ地区まで歩く。 いつものタベルナで夕食取った。 二日も、ご無沙汰していると、なんだか久しぶりなような気分になってくる。 昨日は祭日の為、店は閉まっていた。 このところ、ろくな食事をしていない。 昼間は、ISHの近くのサンドウィッチで済ましてきた。 今夜は久しぶりの、食事らしい食事をすることができて・・・・満足。 食後の散歩という訳ではないが、20分ほどの道のりを、40分かけてゆっくりと 「ISH」に戻る。 坂道を登る頃には、毛皮が暑苦しくなるほど、汗をかいてしまった。 部屋について、ラジオを聴く。 日本のミュージシャンが紹介されている。 サデスティック・ミカバンドの演奏が始まったではないか。 懐かしい・・・・。 涙が出てくる。 * ≪今日の家計簿≫ 両替・・・・・・・70ドル(2572DR) 宿泊代・・・・・・50DR(400円) 昼食代・・・・・・17.5DR(140円) キーホルダー・・・50DR(400円) 焼き栗・・・・・・10DR(80円) サンドウィッチ・・14DR(112円) 夕食代・・・・・・34DR(272円) ジュース・・・・・16.5DR(132円) 〆て・・・・・・192DR(1536円) 5ドルをちょっとオーバーしてしまった。 最後のジュースが余計だったみたいだ。 気をつけろよ!! ジャンル別一覧
人気のクチコミテーマ
|